大きな喜び

ルカ福音書2章1~21

ルカ福音書のクリスマス物語は、「皇帝アウグストゥス」(2:1)という名前で始まります。
ルカは、ローマの初代皇帝の名前を挙げて、救い主の誕生を歴史的な文脈に位置づけるとともに、
世界全体への喜びの報せであることを印象づけています。

「アウグストゥス」は「尊厳なる者」という尊称で、並ぶ者のない神のような方という意味です。
彼は、「人類の救い主」とも呼ばれました。
ルカは、まことの「救い主」は皇帝アウグストゥスではなく、ナザレのイエスだ、と主張しているのです。

「いと高きところには栄光、神にあれ、/地には平和、御心に適う人にあれ。」(2:14)

アウグストゥスが戦いを終わらせ、ローマに平和をもたらしたと讃えられているが、
それは偽りである。
ローマによる平和は、武力で周辺諸国を屈服させているだけだ。
まことの「平和」シャロームは神によって与えられる、
というメッセージなのです。

「あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」(2:12)

「乳飲み子」は、無力な存在です。
ひとりで生きていくことができません。
人に指図することもありません。
しかし、周りの人たちに慰めを与え、微笑みを呼びます。

「飼い葉桶」は、家畜のエサ箱です。
家畜のいる場所は、糞尿の悪臭がします。
決して清潔とはいえません。
そんな悲惨ななかに、微笑んでいる赤ちゃんの姿があります。

これが「救い主のしるし」なのです。

救い主の誕生は、最初に羊飼いたちに告げられました。
イスラエルの民は、かつて遊牧民でした。
ところが時代が進むと、いつまでも定住しない羊飼いは、胡散臭い者たちと見られるようになります。
しかも、家畜の世話のために安息日を守ることができなかったので、
蔑視され、差別されていました。
そんな羊飼いに、救い主誕生の報せが届いたのです。

「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。」(2:10)

羊飼いたちは、まばゆい光に驚き、いったい何ごとだろうと恐れました。
恐れや戸惑いは、わたしたちを立ち止まらせ、前に進む力を奪います。

しかし、そんなわたしたちに、「恐れるな」という声が天から響きます。
そして、「大きな喜び」が与えられるのです。

日々のいろんな出会いのなかで見逃している小さな存在、無視している小さな存在に目を留めて、心を通わせ、共に生きようとするとき、恐れが大きな喜びに変わるのです。
(2020年12月20日)

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